土の香りを運ぶ新ゴボウ
  ゴボウは1年中出回っているので旬を気にしないが、もっとも香り高いのは
4月の中旬ごろから出回り始める新ゴボウだ。ゴボウはもともと薬草として平
安時代に中国から伝わったこともあり、滋養強壮や抗炎症効果、利尿作用があ
るとして民間療法にはよく用いられている。伝来した当時、日本には野菜の種
類が少なかったため、やがて野菜として栽培されるようになった。江戸時代に
は庶民の野菜として、東北地方から九州地方まで広く栽培された。

 ゴボウを野菜として食べているのは、世界広しといえども日本だけだという
(西洋ゴボウと呼ばれるサルシファイは同じキク科野菜ではあるがバラモンジ
ン属で、ゴボウ属のゴボウとは別物)。日本人の舌には美味でも、欧米人には
「硬い木の根」としか感じられないようだ。余談だが、戦時中に収容所でゴボ
ウを食べさせられた捕虜が、戦後の戦犯裁判で「捕虜虐待だ」として当時の収
容所関係者を訴えている。結果はなんと有罪だったという。

 春から初夏にかけて収穫される新ゴボウの特徴としては、やわらかくて風味
があるだけでなくアクが少ないこともあげられる。アク抜きをしないでさっと
ゆがいてサラダや和え物にするなど、歯ごたえと香りを楽しむ料理ができる。
ゴボウは夏が過ぎるとアクが強くなるが、アクには鉄や亜鉛、カリウム、マグ
ネシウムといったミネラル成分が含まれているので、アク抜きは短時間で済ま
せたほうがよいだろう。

 ゴボウは食物繊維の王様だ。一時は消費量が減少していたが、食物繊維の働
きが見直されるにつれて栽培量が増加してきた。便通を良くして腸内で乳酸菌
の繁殖を助けるだけでなく、満腹感を与えながら動物性脂肪の吸収を妨げる働
きがあるという。まさにダイエタリーファイバーだ。香りや旨みが多く含まれ
るのは皮のすぐ下。たわしでこすったり、包丁の峰で皮を薄くはがす程度にし
て、土の香りが残る新ゴボウを召し上がれ。